東京地方裁判所 昭和25年(ワ)3233号 判決
原告 株式会社帝都木工機器製作所
被告 内田保
一、主 文
原告が別紙目録<省略>の宅地につき、期限は昭和三十四年二月二十八日まで、賃料は一ケ月金一千三十八円十三銭、支払期日は毎月二十八日、支払場所は東京都台東区根岸にある被告の事務所という条件による借地権を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一項記載と同旨の判決を求め、その請求原因として、原告は昭和十九年九月五日に別紙目録記載の土地を、被告から期限を昭和三十四年二月二十八日まで、賃料は一ケ月金八十四円十五銭、賃料支払期日は毎月二十八日、支払場所は東京都台東区根岸にある被告の事務所という条件で借り受け、該宅地に工場建物を所有していたところ、その建物は先般の空襲によつて焼失したけれども、引続き前記の借地権を有しているにかゝわらず、被告は原告の右借地権が消滅したと主張して、その存在を争うから、前記借地権の存在確認を求めるため、本訴に及んだと述べ、被告が主張する借地権譲渡の事実を否認するが、被告が請求する増額地代が地代家賃統制令の停止統制額の範囲内のものであることは認めると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実は全部認めるが、原告は昭和二十四年一月頃被告に無断で原告会社の代表取締役である茂木栄次が理事長であつた訴外東京故繊維商工業協同組合へ本件借地権を譲渡し、組合はこの宅地へ事務所と倉庫を建設するために、同年二月頃板囲いをして宅地を使用し始めたので、被告は同年同月三十日附内容証明郵便をもつて、本件宅地の賃貸借契約を解除する旨を通知したところ、該書面は翌三十一日原告へ到達したから、同日限り原被告間の右賃貸借契約は解除されたと述べ、仮りに右抗弁が認められないとすれば被告は本件口頭弁論期日において原告に対して次のように賃料の増額を請求する。即ち原告の主張する賃料は過去の賃料であつて低廉にすぎるから現在の賃料としては地代家賃統制令の停止統制額の範囲内である一ケ月金一千三十八円十三銭が適正である、と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告が昭和十九年九月五日に別紙目録記載の土地を被告から期限は昭和三十四年二月二十八日まで、賃料は一ケ月金八十四円十五銭、支払期日は毎月二十八日、支払場所は東京都台東区根岸所在の被告の事務所という条件で借り受けたことは、当事者間に争がない。よつて被告の抗弁事実について按ずるに、証人若松勇の証言並に被告本人の供述を綜合すると、昭和二十四年の二、三月頃人夫数名が現在の原告会社代表取締役茂木栄次の依頼により、本件宅地の周囲に板囲いをして、土地のじならしをし、土台石を並べて建築に着手していたことが認められまたその当時右茂木栄次が東京故繊維商工業協同組合の理事長として、この組合に関係していたことは、同人がその供述中において自ら認めるところであるが、他方において証人内田和太郎、高原清之進、岡安光太郎の各証言及び原告会社代表者取締役茂木栄次の供述並に同人等の供述によつて、その成立を認めることのできる甲第三号証を綜合すると、原告会社は昭和二十三年頃資本金十八万円、その半額を払込んで設立された会社であるが、会社は戦災を被つて、資産としては、焼残つた機械類及び電話加入権、並に本件宅地の借地権以外にはみるべきものがなく、負債は二十数万円あつて事業は休止の状態であつたこと、当時の代表取締役萩原鴻三郎は病弱のため会社の再建に尽すことが困難であつたから、同年十二月頃、右萩原と前記茂木との間において、萩原他六名が所有する原告会社の株式三千六百株を代金二十万円で茂木外三名に譲渡するという契約が成立したこと、そうして昭和二十四年一月頃には既に原告会社の事実上の支配は茂木栄次に移つていたが、同人が原告会社の取締役に就任した旨の登記は多少遅れて同年七、八月頃なされたこと、茂木が昭和二十四年二、三月頃数名の人夫をやとつて本件宅地に建築の準備工事を始めたのは、被告が原告会社の前代表者萩原に対して建築を承諾したことにもとずいて、引続き原告会社の建物を建造するためであつたこと、を認めることができるから、原告が本件土地について有する借地権を第三者である東京故繊維商工業協同組合に対して譲渡して、組合に宅地を使用させたという被告の抗弁事実は、これを認めるによしなく、前記認定に反する証人若松勇並に被告本人内田保の供述部分は措信できず、其の他に被告の抗弁事実を認めるにたる証拠はない。
なお前記認定の如く原告会社の株主がかわり、同時に会社の機関を構成する自然人の交替があつても、これがために法人格の同一性には何等の変化をもたらすものではないから、右の事実があつたから、本件借地権が原告会社から他の者へ譲渡されたとみることは誤りである。
そこで原告は現在本件土地について昭和十九年九月五日に被告との間において成立した賃貸借契約にもとずく賃借権を有することになるのであるが、被告は昭和二十六年七月五日午後一時の本件口頭弁論期日において、原告に対して本件宅地の一ケ月の賃料を金一千三十八円十三銭に増額することを請求したので、この点について考えてみるに、この増額賃料が地代家賃統制令の定める停止統制額の範囲内であることは当事者間に争なく、また現在東京都内においては地代はその停止統制額の最高限で賃貸され、物価庁の告示の変更に際しては、特別の取りきめのないかぎり賃貸人が賃借人に対し当然その最高限までの増額を請求できる慣習法があることは公知の事実であるから、本件賃貸借契約の約定中賃料は昭和二十六年七月六日以降一ケ月金一千三十八円十三銭に増額されたことになる。而してこの賃貸借契約の期限が昭和三十四年二月二十八日まで、賃料支払期日が毎月二十八日、支払場所が東京都台東区根岸所在の被告事務所であることは、前記のように当事者間に争がないから、ここに原告が本件土地について右のような条件による賃借権を有することを確認する。
よつて原告の本訴請求を正当と認め、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石橋三二)